『 会 合 』

 ボクが『リフレッシュ・ルーム』に入ると、すでにみんな集まっていた。
「来たな、
 ボクが部屋に入ると『カトゥー』は大机の、モニターに向かって右側、モニター前の席に座っていた。
 『カトゥー』の向かいは『ヒューイ』。
 『ダース』はモニターの左側に立っており、『カーク』と『レイチェル』はゲームの所にいた。
「船長はまだですか? 遅いな‥‥時間には厳しい人なのに‥‥」
「さあ‥‥何か急ぎの通信でもあったのかもしれないな。」
 『ヒューイ』はそう言うと、手にした本に目を戻した。
、船長が来るまでいろいろ見ておいで。でもこの部屋から出ちゃだめだよ。」
 早速ボクは『ヒューイ』の本を見にいく。
「ん‥‥? あ、これは本だよ‥‥読んでみるかい? 『宇宙時代の夜明け』‥‥昔の人たちの話さ。僕は、そのころの冒険心に満ちた人々の話が好きでね。」
「ハハハ‥‥ おまえ自身がチキン!臆病モノだからな!」
 『カーク』が口を挟んだ。
 『ヒューイ』は表現しにくい表情をしていた。
「‥‥はこの船で生まれたばかりなんだから‥‥何にでも興味を示した方がいい。船のあちこちを調べてごらん。人から教わるのもいいが、まずは自分でやってみる事さ。」
 『ヒューイ』は『カーク』を無視した。
 『ヒューイ』と『カーク』は仲良くないのかな。
「カトゥー、彼に何か特技はないのかい?」
「今はこれといってないんですが‥‥ 学習機能がついてるから、次第に覚えていきますよ。」
 『ヒューイ』の質問に、『カトゥー』は笑って話した。
「そうだな‥‥ まず、コーヒーの入れ方でも教えてみましょう。」
 『カトゥー』はそういって、席を立った。
、こっちへ来てこいつを操作してごらん。」
 『カトゥー』がボクを呼ぶと、通り道にいた『ダース』は忌々しそうにボクを見て、ヒューイの隣に座った。
 『カトゥー』は調理機械で、『コーヒー』のいれ方を実演してくれた。
「ほら、やってごらん。」
 ボクが『カトゥー』のやった通りに『コーヒー』をいれると、ちょうど『ヒューイ』が来た。
「へえ、どれどれ、味見してみよう。」
 ボクからカップを受け取り、口を付ける。
 そして、『ヒューイ』は顔をしかめた。
「‥‥に、にがい‥‥」
「すみません。」
 どうやら失敗だったようだ。まだ練習が必要だな。
 二人は話しながら、自分の席に戻った。
 ボクは室内をぐるりと見たが、『ホル』はまだ来ていないようだ。
 今度は『カトゥー』に飲んでもらおう。
「お、サンキュー、その調子だぞ。」
 『カトゥー』にはちょうどよかったようだ。
 そういえば、『ヒト』は『名前』を区別しないようだ。
 ボクもそうしよう。
 机のところには他に、ダースもいる。
 ダースが何をしているのか見に近づくと、ダースはこっちを見た。
「私にかまうな。」
 ダースはボクのことをよく思ってないようだ。
 ホルはまだ来ないし、今度は‥‥カーク達にコーヒーを飲んでもらおうか。
 ボクが近づくと、二人はすぐボクに気づいた。
「あら、ありがと。 はいカーク、がコーヒーを入れてくれたわよ。」
「ありがとよ! オレはこれぐらいがちょうどいいぜ。」
「私はアップルティーが好きなんだけど‥‥みんないらないって言って、つけてくれないのよ。」
 二人はそう言いながらコーヒーを飲んでいる。
 ‥‥もしかすると、ヒューイが苦いものがダメなのかもしれない。
 ボクはカークのゲームを覗き込むんだ。
「お、お前もこのゲームやってみっか? こいつは、今オレが一番気にいってるゲームなんだ!」
 『YES』の合図に高めに鳴くと、カークはボクのアームが届かないだろうと、ボクを抱き上げてくれた。
「できるかな?」
「カークはこのゲーム、とってもうまいのよ!」
 少しやってみたが、難しい。
 五分もたたない内に『GAME・OVER』の表示が出てしまった。
「ハッハー! ヘタクソだな。よーし、オレがレクチャーしてやろう。」
 ボクを下ろすとカークはすぐに続きを始めた。
「闇雲に攻撃したってダメさ。敵の攻撃範囲をよく見てやってみな。」
 実際に説明しながらカークはやってくれた。
「よしっ! ここで後ろへまわりこんで‥‥ハハーッ!どうだ!」
 でも、カークはすぐに説明なんか忘れて一人で熱中し始めた。
「そうだ。、後で私の部屋に遊びにいらっしゃい。」
 レイチェルはそう言って微笑むと、大机のダースの隣に座った。
「カークサン イママデノ ナカデ モットモ タンジカンデ ススンデイマス ズイブン ジョウタツ シマシタネ」
「あったりめえよ!」
 新記録に喜ぶと、カークは再び最初からゲームを始めた。
 みんなはちらちらモニターを見ていて、ホルはまだ現れない。
 みんな喜んでくれたから、ダースだってコーヒーは飲んでくれるだろう。
 ボクはまたコーヒーをいれて、ダースの横に行った。
 ダースがボクを見た。
「‥‥私に近よるな!」
 ダースはいきなり、ボクを払いのけた。
 予想外の行動だったから、ボクはそのまま壁までとばされた。
「何するんです!」
 カトゥーが椅子をたち、ヒューイがボクに駆け寄った。
「あいにく私は君達と違って、ロボットに関してはロクな目にあってないんでな。」
「で、でも伍長、それはには関係のない事でしょう‥‥?」
 その時、カークの声と電源が入る音がした。
「あれ、船長?」
 みんなの目がモニターに向く。
 モニターには『ヒト』が映っていた。
 髪も目も茶色で、立派な鼻ひげとあごひげを蓄えている、中年の男。
 これが『ホル』だった。
「遅くなってすまない‥‥ 地球に送る急ぎの書類があってね。みんなどうだ調子は?」
「特に異常なしです。」
 何事もなかったように、ヒューイは言った。
「うむ。」
 ボクはホルの顔がよく見えなかったので、カトゥーの隣へ移動した。
「‥‥‥や‥‥? そこにいるのは‥‥」
 ホルがボクを見た。
 カトゥーはやはりうれしそうに言う。
「はい! といいます。」
「ほう、出来上がったのか。後で見せてもらうよ。」
 ホルはカトゥーと同じく、ボクらにもとても優しそうなヒトだった。
「では簡単ですまないが‥‥以上だ。」
 ホルがそう言うと、自動的にモニターの電源は切れた。
「や〜れやれ‥‥ ミーティングはゲームやって終わりかよ!」
 やはり最初に口を開いたのはカークだった。
「よかったと思ってるくせに!」
「ハハハ! まあな!」
 レイチェルが苦笑いしながら、カークに言った。
 レイチェルとカークは仲がいいようだ。
 二人は話しながら、生活用モジュール側のドアから出ていった。
「カトゥー。例のものを見せてあげるから貨物ブロックへ来ないか?」
 レイチェル達を見送ってから、ヒューイは本を閉じて言った。
「ベヒーモスですか!」
 カトゥーはとてもうれしそうに返事した。
「それじゃ僕は、先に『メイン・コンピュータ』をチェックしてきます。後で倉庫に行きますよ。」
 それから、ボクの方を見た。
もおいで。今回の僕らの仕事‥‥この貨物宇宙船の積み荷さ。エレベータを使っておいで。『メイン・コンピュータ』はレベル3。『倉庫』はレベル1だ。」
 ヒューイとカトゥーはモニター横のドアから出ていった。
 最後にダースが、ボクを睨んでから、モニター横から出て行った。
 一番最初の約束はレイチェルだったから、まずレイチェルを訪ねよう。

 ボクは生活用モジュール側から出た。
 ドアを出てすぐ、通路の向かい側に、生活用モジュールが二つ‥‥それが目に付いた。そう言えば、どこが誰の部屋か、まだ一致していない。
 カトゥーに聞いたようにドアの左の四角いパネルを見ると、赤と青の小さなLEDが点灯するその下に字が表示されている。
 通路の奥側には『センチョウシツ』と書いてあった。当然作業用機械が勝手に入れるはずがない。
 手前側の部屋はヒューイの部屋。そこもまだ入れなかった。
 それからボクは長い通路を歩き、四つの生活用モジュールがある通路に曲がった。
 カトゥーの部屋は通路から見て左側の手前の部屋、その隣は‥‥『ガイライシャヨウ ヨビ』。外来予備ということは、ダースの部屋かな。
 そのとき、後ろから声がした。
「何をしている!」
 ふりかえるとダースがいた。
「貴様、機械の分際でクルーとして登録されているのか‥‥」
 愕然としたような感じで、ダースは言った。
「おかしなマネしたらその場で破壊してやる‥‥ しょせんロボットはロボット、みんな同じだ。人間とは違うんだからな。」
 ダースはボクを押しのけて、部屋に入っていった。
 どうやら過去にロボットと何かあって、だからボク‥‥いや、ロボットを嫌うようだ。
 少しだけど、ダースのことを理解できたかも。
 右側手前の部屋のパネルには『セイカツヨウ モジュール リヨウシャ レイチェル』と表示されている。
 ここだ。
 ちょうどそのとき部屋のドアが開いた。
「じゃ先に行ってるぜ。」
 ボクがみんなよりずっと小さいから、一瞬見えなかったのだろう。
 出てきたのはカークで、カークはボクにつまずきかけた。
「お、おっと! すまねえな!」
 一言謝ると、カークは急ぎ足で、でも軽い足取りで、通路を左‥‥リフレッシュルーム側に歩いていった。
 ボクはもう一度、ドアの横のパネルを見た。
 すると、自動的に照合プログラムが作動した。
「レイチェルサン カラ ニュウシツノ キョカガ デテイマス」
 そうそう、カトゥーが部屋に入るには名前の登録が必要だって言っていたな。
 ボクはアームを伸ばしてパネルに名前を入力した。
「・・・・・・・トウロク カンリョウ ヘヤニハ ジユウニ ハイレマス」
 そう言い終わるとドアが音もなく開いた。しかしレイチェルはちょうどどこかに行くところらしかった。
「あ‥‥あら、‥‥ せっかく来てくれたのにごめんね。私これからコクピットで仕事があるの。よかったらいらっしゃい。」
 レイチェルはそういって、部屋を出ていってしまった。
 残念。
 カトゥーはメイン・コンピュータ・ルームに先に行くと言っていた。
 だから、次はレベル3へ行こう。
 ボクはレイチェルの部屋の隣がカークの部屋だと確認して、右側のエレベータ・フロアへ向かった。

 生活空間であるさっきまでのフロアはレベル2。
 レベル3はドーナツ型ではないようで、エレベータフロアにはレベル2の2つのハッチの間に当たる位置に通路と、その反対側に小さな倉庫があった。
 倉庫はまるでカトゥー専用物置で、カトゥーの作ったロボットの部品やら試作品やら失敗作やらが置かれていた。 でもボクがどうみても失敗だと思う、とても動きそうにない何かまできちんと並べてあったのを見ると、ちょっと嬉しく思った。
 ボクとそっくりなロボットを見たときはちょっとビックリした。 カトゥーの部屋にあったボクの制作記録で、ボクの直前に作っていた試作品がリモコンでのテストで終わったらしいから、きっとコレがボクの一つ前のだろうな。 もしコレが成功していたら、ボクのお兄さんだったんだね。
 ボクはそれを何とか動かせないだろうかと思って、色々変えてみた。
 でもボクの技術では、電源が入って落ちるだけだった。
 残念。

 メイン・コンピュータ・カプセルへの通路は一本道だった。
 通路はカプセルのドアに突き当たると左右に枝分かれし、カプセルをぐるっと回って合流し、またまっすぐ一本道。
 メイン・コンピュータ・カプセルは、責任者であるカトゥーが中にいるときだけ入室できるそうだ。
 ボクが入り口の前に立つと、カプセルはシュンと小さな音を立ててボクを迎え入れてくれた。 中は思っていたよりずっと広く、部屋の中央には端末など比ではない大きなコンピュータがあり、カトゥーはそのモニターのところで何かの操作をしていた。
「来たな、。あらためて紹介するよ。お前の仲間だよ。」
 カトゥーはすぐにボクに気付いて、メインコンピュータにボクを紹介してくれた。
「今日は、また会いましたね。 」
 ‥‥マザー。
 ボクは、メインコンピュータはマザーだと直感した。
 この船の‥‥コギトエルゴスムの全て。
 違う、コギトエルゴスム自身なんだ。
「あなたの事はよく知っています。私はあなたの制作過程をずっと見守ってきました。あなたはカトゥーさんが初めて完成させたロボットなのです。」
 ボクは声帯がなくて音を出すだけしかできないけれど、よろしくお願いしますという気持ちで『声』をだした。
 マザーは声を出さなかったけれど、言葉では表現できないマザーの優しさが、直接伝わってきた。
「彼は船全体を管理してる働きものなんだ。」
 カトゥーは続けて、マザーの仕事を教えてくれた。
 ボクやマザーと話をしながらもカトゥーは手を動かしていたが、ふとカトゥーを見ると、ちょうど仕事が終わったようだった。
「さて‥‥ カプセルの中は異常なしと‥‥ それじゃ『倉庫』に行こう。一緒に来るかい?」
 ボクは、もちろん、と鳴いた。
「よし、それじゃ、がんばって歩いてくるんだ。何事も学習だからね。」
 カトゥーはそう言うと、やはり先に行ってしまった。
 確か倉庫はレベル1だったな。



← 『 起 動 』 / 『 異 常 』 →
目次へ